nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

猫少年 好きなバンドが活動を止めても生活は続く

最近、野良猫とよく遊んでいる。ふらっとやって来てはごろごろとのどを鳴らす生き物だ。遠くで、大きな音でのどを鳴らす日もあれば、あたしのせまい部屋で小さくごろごろと鳴くこともあった。近所に来ると寝床を与えているため、よく懐いてくれるようになった。しかし、あたしは猫を飼ったためしがない。猫との距離のはかり方はわからない。無責任に餌だけやることはできない。

 

一人で暮らすことに慣れてきたものの、誰かに甘えるのは心地がよくて、それが自分の場合は異性ならばなおのことそうであると思う。いなくなったら死んでしまうと思っていた、世界一好きなバンドが活動休止をしてから半年が経とうとしている。それでも町は廻っているし、あたしは色んな音楽を聴く。ライブハウスに行く。自ら楽器をぶら下げてでたらめな音を鳴らしている。そうしているうちに、ぽっかり空いた穴は気づけば埋まっていた。もしかすると、そこに入るものはなんでもよかったのかもしれない。決して代わりを求めたわけではない。あたしはヤリマンではない。好きな人にしか会わないし、好きな音楽しか聴かない。

 

雨は降っていたがゴキゲンだったので、おニューの真っ白なスニーカーをおろした。服は黒が好きだけど、スニーカーは白ばかり買ってしまう。くたくたに汚れるうちに、愛着が増していく過程が愛おしい。人を怒らせることが好きだし、白いスニーカーは履き潰したくなる。だからカネコアヤノが「靴のかかと踏んで歩くことが好き」と歌ったとき、めまいを起こすほど悔しかった。決してかかとは踏まず、汚れては漂白剤につけ置きする、ぬいぐるみたちと一緒にたっぷりのお日様のもとに干して、ぱりっと乾かしてまた履く。それが彼女の愛し方にちがいないと勝手に思い込んでいたから。彼女も誰かを怒らせたりするのだろうか。

 

 

あたしはネイルサロンでジェルネイルをやってもらうのが好きだけど、自分でマニキュアを塗っている人を愛おしく思う。マニキュアは、気をつけていてもすぐ剥がれるし、塗って乾かす間はどこかにつかないか気が気でない。だから、相手がマニキュアを塗って待ち合わせに現れると、もしかして自分に会うために塗ってきてくれたのかと嬉しくなる。その丁寧な姿勢に憧れる。いつかの夜のあの子の爪は、あたしの好きな色。スマホを触るとき、ビールをあおるとき、ちらちらと目に入る。細くて真っ白な指に映える。ペイント・イット・ブラック。可愛い爪だね、と言うと「来る途中で右手の薬指だけ剥がれちゃった」と恥ずかしそうに左手で隠す。それを退かして、剥げちゃった爪を撫でて、指を握って連れ去ってしまいたかった。寒いことを口実に、細い腕にぎゅっとしがみついて、ネオン街を歩いていたら、真っ黒な爪に微かにネオンが反射してることに気付いて、綺麗だなと思っていた。嘘だらけのこの世界では、居続けるわけはどこにもないさ。

 

 

今日の一曲

大貫妙子「都会」