朝起きて、かさかさした寝ぼけ眼に、14.5ミリのカラコンをはめる。10年以上ワンデーのそれを使っていた。どうせ365日せっせと眼球に貼り付けるのに、ワンデーだともったいない、とやっと気付き、人生で初めてマンスリーを使い始めた。裏と表がわからなくなって、いじくり回している間に、娘ははいはいをするようになっていた。動けることが嬉しくて仕方がないらしく、目が合うとにっこり笑う。あたしがカバンから500円玉を見つけたときよりも、上着のポッケから新品のタバコが出てきたときよりも、満面の笑みを浮かべて。てかうちら当たり前に座ったり歩いたりしているけれど、これってめちゃくちゃすごいことだ。赤ん坊を育てていると同時に教えてもらう自己肯定感。自己肯定感。俺、バカだからよくわかんねぇけどよお、この言葉が浸透したせいで余計生きづらくなった人も多いみてーだ…!挫折しまくった中学時代、追い討ちをかける親からの言葉と態度、滅多刺しにされたメンタル、ゾンビと化したあたしのインナーチャイルドが顔を出す。夫は、赤ん坊が泣いていても決して声を荒げない。イライラしない。本当はすることもあるかもしれないが、絶対に態度に出さない。ミルクを化学の実験くらい丁寧に作る彼、お風呂で水が顔にかかり泣く娘を大丈夫だよと笑いながらなだめる彼、寝付けずぐずる娘を優しい眼差しで抱っこをする彼を見ると、うっかり“インナーチャイルド・ゾンビ”が、君はいいなあ、と言わんばかりに、指を咥えながら眺めてくる。あたしは自分の父のことをいまだによく知らない。こんな小さな生き物を打っていた人間のことは一生よく知らないままでいい。なんであたしは打たれたのか、なんでお風呂で怒鳴られたのか。トラウマと言うと大袈裟みたいなことも、彼に話すと抱きしめてくれる。娘に向けるみたいに、優しい眼差しで。ゾンビは二度死ぬ。蘇っては成仏させる。なるべくもう来ないでね。
娘はかわいい。大好き。胸が苦しくなる。自分の体内から産み出したのに、自分とは全く別の人間で、絶対所有欲など抱いてはいけないのに、ずっとそばにいてほしいと願ってしまいそうになる。かわいい。大好き大好き大好き。胸が苦しい。娘にはなるべく痛い思いとか悲しい思いはしてほしくない。そういうわけにはいかない。わかっている。困る。目に入れても痛くない。大好き大好き大好き大好き!14.5mmのカラコンのほうがゴロついて、視界がぼやけた気がしたけれど、彼女のことが愛おしくてつい溢れた涙だった!
今日の一曲
襟を立てて / 下津光史