nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

深海加古川ダイビング

雨の予報を忘れバレエシューズを履いてきてしまった日は、憂鬱で仕方がない。どこまでも詰めがあまい。少しでも濡れないよう、水溜りをひとつひとつ避けながら、一歩ずつ丁寧に進む。それでも靴下までぐっしょり濡れた足元を会社の机の下でぷらぷらさせながら、悲しい気持ちを抑えて今日も労働ってわけ。心が荒んでるときは「綺麗事とか聞きたかないわクソが」と思いながら、タラタラしたんじゃねーよのパケみたいな目つきになってしまうのはなぜなのか。でも綺麗事ばかりぶつぶつ呟いてきた自分のせいだし、とちょっと苦笑いする。

どうしたものか、近ごろ人と会ったあとは落ち込んでしまう。とても楽しくて嬉しいのに。身勝手なあたしは世界からひとりぼっちになったフリをする。六日間も鬱々としていて、頭が重く、会社では信じられないミスを連発し、音楽もテレビもお笑いも料理も筋トレもまともな食事もぜんぶ出来なくなって、そうなるとなんで生きているんだろうとか考え始めちゃって、ずっと消える方法を考えていた。その間にひっそりと誕生日を迎えてしまい、去年と打って変わって早く楽になりたい、他人に迷惑をかけずに消えたいとばかり考えていた。自分の部屋のベランダはダメだ、電車も迷惑だからダメ、樹海にでも行くか、でも虫とかやだな、じゃあ地元の思い出の川に流されるか、でも溺れるのはやだな、なんて、結局自分自身で消えることもできない弱虫だった。自分が生まれた日に、面白いくらいに絶望していた。愛とか夢とかって大好きはずなのに!感情なくしたフリはそろそろ終わりにして!

 

子供の頃は何にでもなれると思っていて、モーニング娘。にも、絵描きにも、ピアニストにもなれると信じて疑わなかった。小学2年生の頃、生活の授業で親に名前の由来を聞いて発表することがあったのをよく覚えている。「あい」という響きは覚えやすいし、物心がついた頃から気に入っていたけど、漢字という概念はあまり理解してなかったので、それまでなんとなく「愛」と書くのだと思っていた。深海の藍色のように深い愛情を持った子になってほしい、そう意味を込めて父が名付けてくれたらしい。しっかり由来を教えてもらったのに、みんなの前で発表するのはなんだか照れ臭くて、当時は適当なことを言って誤魔化したけど。お陰様で、生きづらいほど愛情深い人間に育った。名付けとは、一種のおまじないのようだな。というか、おまじないって感じで「お呪い」って書くのか。そんなんもうのろいと紙一重じゃないか。

 

そんなことを思い出していると、ひとりの部屋にけたたましくサイレンが鳴り響く。体が硬直し、逃げる間もなく、あたしだけ取り残されてしまい、あっという間にあたり一面がブルーになっていた。空と海の境目はなく、暗いのにほのかに明るくて、ラジオの音はだんだんくぐもり、どこにいるのかわからなくなる。気付けばあたしは海に沈んでいた。キーンと耳鳴りがする。カナヅチなので仕方なく息継ぎなしで泳ぐ。絶望とは違う、懐かしい感覚がする。慣れてきたので重たい瞼をゆっくりと開ける。視界はぼやぼやする。そろそろ息が苦しい。しょっぱい味がする。すれ違う生き物がスローモーションのように泳いでいき、こちらをちらちらと見てくる。口をぱくぱくさせているが、違う言語なので、聞き取れない。頭が真っ白になるまで構わず泳ぎ続けると、いつの間にか実家のベッドにいた。さっきまであたしは確かに海だった。犬が一生懸命に飛びついてくる。ひょっとしたら彼女もあたしと泳いでいたのだろうか。

 

 

 

2022年になって決めた目標は「自分の人生に責任を持つ」だった。経済的、社会的な自立という意味で掲げたものだったが、最近気づいた。孤独と闘うことだ。それが出来てから初めて責任が伴うのか。お風呂から立ち上がれなくなったときも、肌に何も塗る気力もなくカサカサになったときも、泣きながらぬいぐるみを抱いて眠った夜も、ほとんど眠れず血眼で迎えた朝も、闘っている証だ。OK OK。

 

今日の一曲

Summer Eye「人生」

 

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今日も今日とて残業だったけど、宅配ボックスにこれが入っていて生き返った。予約して忘れた頃に届くシステム。それはもうさながら彼からのサプライズ・プレゼント!引っ越しを決意したときにこれがリリースされて、音楽を休んでた人がさ、新しい形で「変わるにはいい時期さ」「荒れる波に船を出せ いつだってやり直せる」と歌ってくれて、どれだけ救われたか。この人の綺麗事はどこまでも美しい。飲まれていい。新品なのに盤が謎に汚れてたけど、OK OK。