nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

スリップドレスと斑点模様

雨の日は、やはり好きになれない。けれども、嫌いではなくなった気がする。行ったこともない、曇り空のロンドンを思い浮かべてみる。わたしは、イギリスとは、いつだって曇天にちがいない、と決めつけているのだ。

車窓からは、洗濯物を干したままの家が見えて、わたしが取り込んであげたいな、と思った。

 

ここ最近、毎日痒みと発疹に悩まされている。医者は、それをストレスだ、と言ったが、正直疑わしい。もしかすると、一生このみにくい肌のままかもしれない。不安に駆られると、痒みは増すばかりである。

 

風呂やシャワーでは必ず濡れるのに、雨に打たれることは、なぜこんなにも不快なのか。苛立ちながら、冷えたからだを湯であたためたい衝動をぐっとこらえ、水と言ってもいいくらいのつめたいぬるま湯をさっと浴びる(湯だと発疹が悪化するのだ)。

 

待ってました、と言わんばかりにドアのむこうに鎮座していた犬に、抱きしめてもいい、ときくと、彼女はいいよ、と答えるかのように、ゆっくりとまばたきをしてみせたので、ぎゅう、と抱きしめた。わたしに体をゆだねる彼女は、じんわりあたたかく、毛並みはつややかで、抱いているだけで心がおだやかになる。黒々した瞳は、まるですべてを見透かしているかのようで、わたしは涙がとまらなくなった。

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ある晩、彼は、わたしのからだの曲線を、綺麗と言った。すべすべだ、とそっと撫でられると、本当にそうなれた気がした。そのときわたしは、ふわふわとした頭で、「手当て」という言葉の意味を思い出す。愛情をはらんでいるその大きな手は、薬よりもずっと効果的で、魔法みたくわたしを安心させた。