nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

ファミリアのデニムバッグを君に

 あたしが死ぬと、きっとあなたも死んでしまう。大げさでなく、今、あたし達は一心同体だ。ふつう、他人とは絶対にわかり合えないし、“ふつう”、自分とその人との間には目に見えないけれど明確な境界線がある。それが今のあたし達にはないのだ。そりゃあ、離れ離れになってからも自分の所有物のように接する人も現れてしまうのだろう。

へそを出したり、タイトなラインの洋服を着るのが好きだった。それらはサイズがキツくて今はもう入らない。自分の体型が憎くて愛おしくてたまらなかった、そんなあたしのくびれがなくなるということ、それはまだ見ぬあなたを、もうすでに自分のことよりずっとずっと愛し始めているということ。うるせえミナミや梅田の街を歩くときは「全員殺す」という気持ちを持っていないと、あなたを守れないとすら思っているよ。あたしただ一人の体が変わっていく感覚だったのが、とてつもない使命感を与えられたヒーローみたいな感覚に変わってきた。変だよね。顔も見たことないし声も聞いたことないのに!まだ見ぬあなたのぷくぷくとしたほっぺたや、作り物みたいに小さな手指、むちむちとした脚を想像してみる。全部食べちゃいたくなるかもしれない。突っついたりいじわるして困らせてしまいたくなるかもしれない。

この世には理不尽なことが多い。テレビやネットはうんざりする政治のニュース、ショッキングな世界の出来事が。耳を塞いであげたいよ。ずっと考えていた、あなたをこの世に迎えていいのか。傷つけてしまうだけではないのか。あたしは、答えを出したときに気付いた。辛い出来事は多いが、反対に楽しいこともたくさんあるって今なら胸を張って言える。ド綺麗事だよ。それに気がつくには随分と時間がかかった。死にたい夜なんてたくさん味わった、それはかなしいことに、あなたが来てくれてからも変わらない。そういうものなのだ。てかあたしがあなたに会いたいだけなんだよ!大丈夫、嫌なことがあったら一緒に逃げちゃおう、あたしは逃げるの大得意。馬鹿みたいに新大阪からわざわざ新幹線に乗って実家に行っちゃおう。犬を撫でよう。武藤敬司に似ているおじいちゃんに、片手で抱っこされてるのを、あたしは眺めてるから。大義名分を成さなくても勉強や運動で秀でてなくてもいい、そばであなたの成長を可能な限りつぶさに見つめられたなら。

 

大きないびきに反応するかのように、真夜中や早朝、時間も憚らず踊りだすあなた。ギターの音色が響くとき、美味しいごはんを食べたとき、ぽんぽんとノックすると返事をしてくれるあなた。そしてあたしはあなたと、毎日腹にキスしてから家を出る夫の無事を祈る。ふたりで手を当ててニコニコ微笑む。料理を作れば、綺麗に出来たほうを彼にあげる。これは、あたしの見栄ではなく愛情表現。いちばん赤ちゃんみたいだった人が、あたしよりずっとしっかりして。彼の黒々としたその目からは溢れんばかりの慈愛を感じる。そのたびあたしは泣きたくなる。

 

「新居広いなあ、なにする、とりあえず踊るか」

「みんな踊れば戦争なんてなくなるのにね」

 

余談ではあるが、最近ちんこを舐めるときに不思議な感情になる。生殖を果たしつつある今、その分野に関してはマジで無意味な行動だなと本能で思っているのかもしれない。つまり愛する男のそれしか舐められなくなってしまったのだ。これが愛じゃなければ、この世に愛そのものなど存在しないのである。多分な。

 

この文章を書いている間にも、応えるようにあなたはノックをする。もしくはキックかもしれない。外は寒くなってきたから、まだゆっくり眠ってていいよ。その時が来たら、思い切りドアをこじ開けておいで、それまでは鍵をかけておいて。みんな、あなたに会えるのを心待ちにしている。あと少し、一緒に何とかやってこうね。最近鉄分摂り忘れててごめん、たまに歩きすぎて疲れさせてごめん。膀胱を蹴るのはそこそこにしてくれたら助かるよ。

 

今日の一曲

胎動 / LIBRO

 

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