nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

赤い実はそのうちはじける

8月19日。

去年の今頃に何をしていたかなんて別にどうだってよくて、京都よりも何故か湿度の高いこの部屋で、今日も惜しみなくクーラーをつけている。夏場の、6畳1Kの台所は、サウナと錯覚するくらいに灼熱だ。苛立ちながら、ガスの元栓を開けたり閉めたりするだけの夏。ファミリー向けのあの部屋のダイニングキッチンにはクーラーがついていて、それはそれは快適に料理をしたものだった。今年、この街では花火が上がらなかった。

 

たまに、眠り方を忘れる。目を閉じてみるものの、黒目の位置はどこだっけ、ずっとまぶたを閉じておくにはどうしてたっけ、何を考えて夢を見ていたっけ、と、余計なことをぐるぐる考える。眠れない。誰かのでたらめな子守唄が聴きたい。

たまに、一生さみしかったらどうしよう、と不安になる。具体的に何がさみしいのかはわからない。漠然とした孤独感に襲われ、涙が出る。あたしも、教習所に行くべきだった。新聞を取るべきだった。そうすれば、またあの大きな蛇がやって来てたのだろうか。誰にも妬まなくなった。未練も後悔もなくなった。もうきっと、一生蛇にうなされることはない。

好きな小説の景色は、だいたいいつも夏だった。あたしは夏の終わりが本当に苦手で、海へ行ったり、お祭りが好きなわけではないのに、夏が終わる頃には特別落ち込んでしまう。

 

さみしさとは共存していくしかないらしい。

 

あたしはピンクが好きだ。それによく似合う。おばあちゃんは、物心がついた頃から、あたしの黒髪を「綺麗な髪や」と褒めながら、生まれたての子猫を毛づくろいする母猫のように、丁寧に頭を撫でてくれていた。だから、初めてピンクに染めたときは、大層ショックだったらしい。黒染めで戻したときには「もう二度とどぎつい色にせんといてな」と言われたのを無視して、結局また染めた。怒られるかな、これでまたあたしを認識してくれるかもしれない。おばあちゃん、あたしはピンクがよく似合うんだよ。

おばあちゃんは、夏が過ぎていくにつれて、元気がなくなっていく。あたしたちは似た者同士だ。これ以上心配かけないように、いかさまの京都での暮らしを楽しげに語ってみる。それはもう、ペテン師も真っ青になるほどの作り話だ。聞こえてるのか聴こえてるのかは、よくわからない。

 

足の爪が伸びていく速度で、いつの間にか夏は終わった。

 

 

 

 

 

 

今日の一曲

lyrical school / Last Summer