nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

あたし版関白宣言 灰皿に少しの水を注いで完成する丁寧な暮らし

膝下丈のジャンパースカートにfamiliarのお稽古バッグを下げた女子高生たちや、2泊3日はできそうな大きなバッグを持った金髪美容専門学生たちの笑い声は、ビー玉が床に散らばるみたいに、カラカラと音がする。春だ。電車に乗っている時は、それに揺られているフリをしながら、音楽に身を任せて頭を振ってみる。すると、さっきまで元気だったイヤホンからプツリと音が止まる。しょっちゅうご機嫌ななめになるそいつは、もう何も聴かせてくれなくなった。でもあたしは大丈夫。何度も聴いて覚えた歌を、脳内セルフ再生永久リピートで、どう考えても定時で帰ることができないとわかっている会社に今日も行く。

起き抜けのしわくちゃのシーツはさざ波みたい。広げっぱなしのヨガマットは、ときにランウェイのように見えてくる。白くまと犬と少し喋って、灰皿がわりのワンカップの空き瓶に少しの水を注いで完成する、丁寧な暮らし。部屋の電気は消せないし、洗濯物はよく洗濯機の中で眠ったままだ。たまにしか使うことがないトースターとティファール、炊飯器は居心地が悪そうに床に鎮座している。君にラックを買ってあげる。

ずっと他人の人生を歩んでいる気がしていた。というか、自分の人生にいまいちピンと来てないままこの年齢になっていた。今でも思う、人生って何。全部自分で選択してきたはずなのに、他人事みたいにすました顔で、流されていることにも気づかずに、はっとさせられる頃にはそこは大海原だった。もっといろんなことができるし、別にしなくてもいいのだ。

でもね、ひとつだけ死ぬまで続けたいことができた。好きな人たちにずっと会いたい。性別年齢人種問わず「あ、この人のこと好きだ!」と思ったら心と体がでろでろに溶けるくらい気を許してしまう。もしあたしに尻尾が生えていたら、千切れんばかりに振っていただろう。最近仲が良い友達のことがめちゃくちゃ好き!それだけで生きるの超楽しい。

 

プロポーズはいらない 代わりに愛してるよりつらい言葉を教えて 指輪はもういらないから お揃いのタトゥーを薬指に入れるの 結婚式は無人島であげよう 真っ黒なドレスを着るわ ハネムーンはフジロック 子供はきっと産めないよ セックスは三ヶ月に一度だけ でも毎日一緒に眠りたい 死んだらどうか骨を海に投げて 小さなバラの花束も一緒にね

 

突然あたし版関白宣言を考えてたら夜が更けてきた。恋人もいないし、結婚したくないけれど。すぐその考えも変わると思う。あたしは気まぐれだから。まだ大海原で溺れている真っ最中なのよ。もうしばらく泳がされていたい。