nuruinemuri

タイトルに偽りアリ

やかましい孤独

初めて自分が社会に馴染めない、と気付いたとき、世界はこんなにもうるさいのか、と驚いた。田舎のショッピングモールのゲームセンターみたく、本当にうるさい。幼いながらに思い浮かべた「孤独」とは、ずっと静かなイメージだった。普段見ることがないような魚がうじゃうじゃいるくらいの、深い海の底あたりみたく、光もささない、たまに微かに音がしてもすぐに吸収されて、なかったことにされるような、静寂。実際は違っていた。孤独は、やかましさの中に存在する。自分が求めていない音は、全て騒音でしかなかった。そして自分も、結局はその騒音の一部でしかない。

 

あたしの髪の毛が赤く染まっていくなか、友人らの腹は大きくなり、一人が二人になって、酒もタバコも辞め、自分のことより胎の中身を慈しみ、生きものとしての母親の形になる一方、ちゃらんぽらんなあたしは座りが悪くなり、彼女たちとは真逆の行動をとる。さみしくてさみしくて堪らない。成長しないって約束じゃん。まるで幼児だ。存在するかもわからない、あたしの未来を想像してみる。けたたましい孤独だ。居酒屋のうるささが、今日はやけに気に障る。あたしたちの声だけ響けばいいのに。

その一方で、生まれてくる彼女もしくは彼らを待ち遠しく思う。本当は長生きなんてしたくないけど、君たちが大人になったら一緒に酒を飲みたいくらい、会えるのを待ち望んでいる。友達の子供は腹の中にいる時点でもうあたしの友達なのだ、ともう決めつけている。

 

姉は、無痛分娩を選択したらしい。エコー写真は、「ムー」に載っている未確認生物みたいで苦手だったけど、身内のそれを見てからは、ちょっと面白くなった。みんな、優しくなんてならなくていいから、わがままでいいから、外の世界はそこよりも結構うるさいとおもうけど、面白いことは多いよ。どうか会える日まで、健やかで。入れ違いにならないように、あたしはもう少し生きます。

 

 

今日の一曲

ナイロンの糸 / サカナクション

 

 

 

 

 

 

 



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去年の秋、神社仏閣巡りが好きな父が京都へやってきて、生まれて初めて二人きりで遊んだ日。二人の時は口数が少ない彼が、珍しく終始饒舌だった。神社内でかき氷をご馳走してくれて、彼は抹茶味に小豆をトッピングまでしていた。隣のテーブルのお爺さんに、レコードバッグを褒められた。上機嫌な父は、日本酒まで買ってくれた。お酒の神様を祀る神社だった。

先を歩く父の背中を見て、あたしは彼のことなんて何も知らないのではないか、と思った。

スピリチュアルとかオーラとか特別信じないけれど、ここは京都とは思えないくらい爽やかで、あまりにも空気が澄んでいる場所で驚いた。今日は、この日みたいな気持ちの良い天気だったので、ふと思い出した。